本文に出てくる美術用語

空間空気遠近法

空気遠近法は、遠くにあるものほど色が薄く、青みを帯び、形の境目がやわらかく見える性質を利用して奥行きを表す方法です。

空間消失点

消失点は、奥へ向かう平行な線が画面の中で集まって見える点です。遠近法の要となり、絵の空間がどこへ開いていくかを示します。

輪郭スフマート

スフマートは、強い線で境目を区切らず、明暗や色のゆるやかな移り変わりで形を見せる技法です。煙のように境目がやわらかく見えるのが特徴です。

修道院の食堂に、もう一つの食卓を置く

《最後の晩餐》は、ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院に残る壁画です。高さ4.6メートル、幅8.8メートル。食堂の向かい側には、ドナート・モントルファノの《磔刑》があります。

格天井と左右の壁は、実際の部屋が奥へ延びたように続きます。食事中の修道士が顔を上げれば、正面にも十三人の食卓がある。絵を見るためだけの部屋ではなかったことが、配置から伝わります。

「一人が裏切る」の直後、十二人が別々に動く

弟子たちは驚き、問い返し、疑い、黙り込みます。両手を広げた大ヤコブの横では、フィリポが胸へ手を当てています。ペトロは身を乗り出し、トマスは指を立てました。反応が一人ずつ違うので、横長の画面が単調になりません。

中央のキリストは、両手をテーブルへ伸ばした三角形の姿で座っています。左右では人が押し合うほど動いているのに、ここだけ空間が空いている。ざわめきは中央から外へ広がり、視線は静かな中央へ戻ります。

天井の線を伸ばすと、キリストの頭へ戻る

格天井の縁や壁の上端を奥へたどると、線はキリストの頭の近くへ集まります。窓の外の明るい空も、その輪郭を囲みます。十三人が一列に並んでいても、目が中央を見失わない仕掛けです。

弟子たちは三人ずつ、四組に分かれています。組の中では手と顔が近づき、会話が起きる。組と組のあいだには小さな隙間があり、人物を数えやすくしています。動く人間と、中央へ収束する建築の線が画面を支えます。

描き直す時間を選び、丈夫さを手放した

湿った漆喰へ描く通常のフレスコなら、乾く前に仕事を進めなくてはなりません。レオナルドは乾いた壁を選び、表情や光を時間をかけて直せるようにしました。公式美術館も技法を dry wall-painting(乾いた壁への描画)と記しています。

その代わり、顔料は壁と一体にならず、表面から失われやすくなりました。細部を練り直せたことと、完成後まもなく傷み始めたことは同じ実験の表裏です。今見える色を、制作当時そのままとは考えない方がよいでしょう。

手だけを追って、最後に中央へ戻る

人数の多さに迷ったら、顔より手を追います。キリストの両手から左右へ進むと、開いた手、胸を指す手、隣の肩へ伸びる手が、言葉の伝わる順番をつくっています。

画面の端まで来たら、テーブルの水平線か天井の線をたどって中央へ戻ります。人の動きは左右へ広がり、部屋の線は中心へ集まる。一往復するだけで、この絵が静止画なのに騒がしく見える理由を身体で追えます。

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レオナルド・ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》
最後の晩餐 / レオナルド・ダ・ヴィンチ1495-1498年頃
「一人が裏切る」という言葉を聞いた直後。十二人の手と顔が動き、中央のキリストだけが静かに残る
画像を拡大画像出典
ラファエロ《アテナイの学堂》
アテナイの学堂 / ラファエロ・サンティ1509-1511年頃
奥の二人へ建築の線が集まる。大勢の人物を小さな組に分けた点も《最後の晩餐》と比べやすい
画像を拡大画像出典
カラヴァッジョ《聖マタイの召命》
聖マタイの召命 / カラヴァッジョ1599-1600年頃
窓から差す光とキリストの指が、マタイへ同時に届く。出来事の一瞬を選んだ後世の比較作
この作品の解説画像を拡大画像出典

よくある質問

《最後の晩餐》はフレスコ画ですか?
伝統的なブオン・フレスコではありません。レオナルドは乾いた壁の白い下地へ絵具を重ねました。ゆっくり修正できる反面、顔料が壁から離れやすく、早くから傷んだ原因にもなりました。
ユダは画面のどこにいますか?
キリストの向かって左、ペトロとヨハネのあいだで少し手前にいます。ほかの弟子と同じ側へ座り、顔を影へ引き、右手に小さな袋を握る人物です。
最初にどこに目を置くと追いやすい?
中央のキリストを見たあと、弟子たちの手だけを左右へ追ってください。端まで進んだら、天井や壁の線で中央へ戻ります。人物の動きと遠近法を一度に確かめられます。

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