中央のひげの男が、一般にマタイとされる

主題は『マタイによる福音書』9章9節です。収税所に座るマタイへキリストが「私に従いなさい」と告げ、マタイは立ち上がって従います。聖書の記述は短く、会話の途中は書かれていません。

カラヴァッジョが選んだのは、声が届き、まだ誰も立ち上がっていない瞬間です。中央のひげの男は左手で自分を指し、右手は硬貨のそばに残っています。「私を?」という反応に見えるため、この人物をマタイとするのが一般的です。

キリストは、右端でほとんど隠れている

主役のキリストは、右端でペテロの背後に立ちます。見えるのは顔の一部と右手、頭上の細い光輪ほどです。画面の中央を占めず、指す動作だけを机の人びとへ送っています。

右上から入る光も、キリストの手とほぼ同じ向きに進みます。ローマ市の公式観光案内は、この光が右から左へ、キリストの招きからマタイの驚きへ注意を移すと説明しています。

左端の二人は、硬貨から目を上げない

机を囲む五人が、一斉に同じ反応をするわけではありません。中央の男と右側の若者たちは顔を上げますが、左端の二人は硬貨を見続けます。光は部屋へ入っていても、全員が出来事に気づくわけではありません。

だから画面は、マタイだけを探して終わりではありません。硬貨を数える指、こちらを振り返る顔、キリストへ向く目線を一人ずつ確かめると、同じ一秒の中に異なる反応が並んでいることが分かります。

キリストの手は、《アダムの創造》を左右反転したように見える

キリストの手は、システィーナ礼拝堂の《アダムの創造》でアダムが伸ばす手によく似ています。Smarthistoryは、キリストを人間へ新しい生をもたらす「第二のアダム」と読む考えに基づくと説明しています。

ペテロもキリストの前で左手を伸ばします。キリスト、ペテロ、マタイの三つの手は、右端から中央へ続く鎖のようです。大きな光線より先に小さな指を見つけると、構図の流れを追いやすくなります。

教会では、左壁から右壁へ三作品を見る

作品はいまもローマのサン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会、コンタレッリ礼拝堂にあります。左壁が《聖マタイの召命》、正面祭壇が《聖マタイと天使》、右壁が《聖マタイの殉教》です。

これはカラヴァッジョにとって最初の公的な注文でした。美術館で一枚だけ見るのとは違い、教会では呼びかけ、福音書の執筆、殉教というマタイの生涯が三方向に分かれます。現地では、絵の中の光と礼拝堂へ入る実際の光の向きも見比べられます。

作品で見る

カラヴァッジョ《聖マタイの召命》
The Calling of Saint Matthew / カラヴァッジョ1599-1600年頃
右端のキリスト、ペテロ、中央のマタイへ、三つの手が同じ方向につながる
画像を拡大画像出典

よくある質問

《聖マタイの召命》は何を描いた絵ですか?
収税所にいたマタイへキリストが「私に従いなさい」と呼びかけ、マタイが使徒となる転換の瞬間を描いた絵です。
《聖マタイの召命》では、どの人物がマタイなのですか?
一般には、中央で左手を自分へ向けるひげの男がマタイとされます。右手はまだ机上の硬貨のそばにあります。
《聖マタイの召命》の光にはどんな意味がありますか?
キリストの呼びかけと神の恩寵を表す光と読まれます。右から左へ進み、キリストの手からマタイの顔へ視線を導きます。
キリストの指は何を意味していますか?
ミケランジェロ《アダムの創造》のアダムの手に似ています。キリストを、新しい生をもたらす「第二のアダム」とする読みにつながります。
《聖マタイの召命》はどこにありますか?
ローマのサン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会、コンタレッリ礼拝堂にあります。《聖マタイの殉教》《聖マタイと天使》とともに展示されています。
最初はどこから見始めると追いやすいですか?
右端の手を見つけたら、光の斜線に沿って机のまわりへ視線を移してください。誰が振り向き、誰が硬貨を見続けるのか。反応の差が、場面の転換を語っています。

作家・時代・見方を選ぶ

この作家の作品カラヴァッジョ

代表作や同時代の作品を、作家ごとにまとめています。

同じテーマ作品を読む

同じテーマの記事をまとめています。

ほかの記事を探す

作品・作家

近い作品・作家の記事

同じ作家や時代を扱う記事です。

カラヴァッジョ《聖マタイの召命》

16世紀末〜17世紀初頭 / ローマ

光は、右から左へ進みます

ローマのサン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会。その礼拝堂の右壁で、キリストが暗い部屋へ入ってきます。《聖マタイの召命》は、単独で完結する絵ではありません。向かいの《聖マタイの殉教》、正面の祭壇画と同じ場所にあることを押さえてから、右から左へ進む光をたどります。

記事を読む
暗い室内へ光が差すカラヴァッジョ《聖マタイの召命》

16〜17世紀 / ヨーロッパ

宗教改革は西洋美術をどう変えた?プロテスタントとバロックの分岐

争点
聖像や宗教画を信仰でどう扱うか
北の展開
肖像、風俗、静物、風景の市場が拡大

宗教改革のあと、ヨーロッパから宗教画が消えたわけではありません。教会の像が壊された地域がある一方で、カトリック圏では光と身振りで観客へ迫る宗教画が生まれました。北では、肖像や室内画を家庭へ飾る市場も広がります。

記事を読む

波、光、群衆。静止画なのに動きを感じる3枚を比べます。

特集の記事をすべて見る
葛飾北斎《神奈川沖浪裏》

作品ガイド

《神奈川沖浪裏》を、波だけで終わらせない

読み方
かながわおきなみうら
作者
葛飾北斎

《神奈川沖浪裏》は「かながわおきなみうら」と読みます。葛飾北斎の『冨嶽三十六景』の一図で、1830〜1832年頃に刊行されました。大波の下には三艘の舟があり、その奥に小さな富士が見えます。

記事を読む
レンブラント《夜警》

作品ガイド

《夜警》は、整列する前のざわめきを描いた

隊長の左手が前へ伸び、その影が副官の黄色い上着に落ちています。後ろでは銃が火を噴き、犬が吠え、太鼓が鳴る。《夜警》は静かな顔の一覧ではありません。レンブラントはアムステルダムの市民隊を、行進が始まる直前のざわめきの中へ置きました。

記事を読む

テーマを広げる

関連するテーマ

同じタグや視点を持つ記事をまとめました。

カラヴァッジョ《エマオの晩餐》

作品ガイド

《エマオの晩餐》は何が飛び出して見える? カラヴァッジョが食卓を『いま起きる出来事』に変える理由

テーブルの向こうで腕が大きく開き、椅子がきしむように身体が立ち上がる。果物かごは机の縁から張り出し、こちらへ落ちそうです。復活したキリストに弟子たちが気づく瞬間を、カラヴァッジョは遠い奇跡にしませんでした。

記事を読む
ヨハネス・フェルメール《真珠の耳飾りの少女》

作品ガイド

美しいのに、なぜか怖い。5つの名画を見比べる

始まり
怖い、不思議、落ち着かないという第一印象
見る順番
視線、暗さ、空間、象徴の順に追う

《真珠の耳飾りの少女》が怖く感じるのは、暗闇から顔だけが浮かび、こちらを見返すように見えるからです。名前も場所も分からないため、視線の行き先も決まりません。少し怖い、なんとなく不思議、目が合うと落ち着かない。

記事を読む

参照した資料