本文に出てくる美術用語
礼拝堂に入ると、三つのマタイが待っている
コンタレッリ礼拝堂には、カラヴァッジョが1599年から1602年に描いた三作品が残ります。右壁が《聖マタイの召命》、左壁が《聖マタイの殉教》、正面の祭壇が《聖マタイと天使》。呼ばれ、殉教し、福音書を書くマタイを、三方向から見る場所です。
《召命》だけを本の図版で見ると、横長の暗い室内で終わってしまいます。実際には教会の側壁に掛かり、向かい側では殉教の場面が進む。どこに置かれた絵かを知ると、右から現れるキリストの位置にも意味が出ます。
光と呼びかけは、右から左へ進む
画面右端では、キリストの身体の多くがペテロに隠れ、手だけが卓へ伸びています。その上を斜めの光が走り、羽根飾りの帽子、ひげの男の顔、硬貨を数える若者の手を順に拾います。
ローマ市の公式解説も、光がキリストの招きからマタイの驚きへ、右から左へ注意を運ぶと説明しています。光の向きに沿って人物の反応を追うと、呼びかけの瞬間が読めます。
誰がマタイか、指先で迷わせる
卓上では、ひげの男が左を指しているようにも、自分の胸を指して「私ですか」と聞いているようにも見えます。さらに左端の若者は硬貨から目を上げません。マタイを一目で特定させず、呼びかけが届く途中を描いたような曖昧さがあります。
ここで暗さが効きます。部屋の隅や衣服の境目は沈み、光を受けた顔と手だけが残る。キアロスクーロという用語を覚える前に、見える手を右から一本ずつ数えると、明暗が物語を運ぶ仕組みを実感できます。
向かいの《殉教》では、光の役目が変わる
礼拝堂の反対側にある《聖マタイの殉教》では、光が倒れたマタイと剣を振るう男を露出させます。《召命》の静かな驚きに対し、こちらは周囲の人々が散り、祭壇の少年が叫びながら逃げる場面です。
同じ画家、同じ聖人、同じ礼拝堂でも、光の使い方は一つではありません。右壁では呼びかけの道筋をつくり、左壁では事件の中心を暴き出す。二枚を往復すると、カラヴァッジョを「暗い背景の画家」だけで終えずに済みます。
最初の三分は、右端の手から始める
右端にいるキリストの手から、光に沿って左へ進みます。卓上の手を一つずつ数えたら、まだ硬貨を見ている人物へ戻る。全員が同時に気づいたわけではないとわかります。
教会で見られるなら、振り返って《殉教》も同じ順番でたどります。明るい身体、逃げる人、暗がりの顔。同じ礼拝堂で光の役割がどう変わるか比べると、二枚の違いが記憶に残ります。
作品で見る
よくある質問
- カラヴァッジョとはどんな画家ですか?
- 16世紀末から17世紀初頭に活動したイタリアの画家です。宗教画に強い現実感を持ち込み、暗い空間に鋭い光を差し込ませる表現でバロック絵画に大きな影響を与えました。
- カラヴァッジョの代表作は何ですか?
- 《聖マタイの召命》《キリストの埋葬》《エマオの晩餐》などが代表作としてよく挙げられます。入門では、光の使い方を追いやすい《聖マタイの召命》から見ると流れをつかめます。
- カラヴァッジョはバロックの画家ですか?
- はい。とくに初期バロックを代表する画家として扱われます。光と現実感の扱いで後続世代に大きな影響を与えました。
- 宗教画を知らないと楽しめませんか?
- 背景知識はあとからで構いません。右端のキリストの手から左へ光をたどり、卓上の人物が一人ずつどう反応しているかを見るだけでも、場面の変化を追えます。
- 最初の1枚は何がよいですか?
- 《聖マタイの召命》が見やすいです。同じ礼拝堂の《聖マタイの殉教》《聖マタイと天使》と組になっていることも覚えておくと、三作で物語の流れを追えます。






