橋の奥の二人は、振り返らない
画面の手前に一人、橋の奥に二人います。奥の二人は背を向けたまま歩き、手前の人物だけが立ち止まっています。三人の距離を先に見てください。これは顔のアップに見えて、同じ場所にいる人との隔たりまで描いた絵です。
ムンクは1892年の文章に、二人の友人が歩き続ける一方、自分は立ち止まったと記しました。空が血のように赤くなり、自然を貫く大きな叫びを感じた。いつもの散歩道が、急に耐えがたい場所へ変わった場面です。
両手は頬より、耳に当たっている
口が大きく開いているため、人物自身が叫んでいるように見えます。ただ、細長い両手は頬を包むというより、左右の耳をふさいでいます。MUNCHも、人物の動作に一つだけの答えを置いていません。
題名と顔だけなら『叫ぶ人』です。ムンクの文章まで読むと、外から押し寄せる叫びを聞く人にも変わります。人物の声なのか、自然の声なのか。決め切れない状態が、画面の落ち着かなさを残しています。
欄干だけが、まっすぐ奥へ伸びる
右下の欄干をたどると、線は画面奥の一点へ鋭く集まります。人物の輪郭、赤い空、青黒い水面は反対に、輪を重ねるような曲線です。橋は動かず、橋の外側だけが揺れて見えます。
ノルウェー国立美術館は、空を走る血のような線を、自然を通る叫びの音波になぞらえています。赤い空の自然科学的な原因を一つに決めることはできません。絵の中では、色と線が聞こえない音を目に見える形へ変えています。
顔から年齢と性別が消えている
中央人物の服装、髪、年齢、性別ははっきりしません。MUNCHはこの姿を、匿名でジェンダーを限定しない像として紹介しています。特定の誰かに見えないぶん、見る人は自分の不安を重ねられます。
ムンクは1895年に同じ主題のリトグラフを作りました。白黒になっても、丸い頭、開いた口、耳に当てた両手は残ります。複製しても崩れない輪郭だったからこそ、雑誌から映画、絵文字まで繰り返し引用されました。
彩色された《叫び》は、四作ある
《叫び》は一作だけではありません。MUNCHによると、彩色された作品はテンペラ画二点と素描二点の計四点です。さらに1895年のリトグラフがあり、現存する刷りはおよそ30点とされています。
ノルウェー国立美術館は最初の彩色版とされる1893年作を所蔵しています。MUNCHには絵画一点、素描一点、リトグラフ六点があり、傷みを抑えるため交替で展示されます。訪問前は、どの版が出ているか公式ページで確認するのが確実です。
欄干、二人、空、顔の順で見る
まず欄干の直線を奥まで追います。次に、歩き去る二人との距離を見て、赤い空と水面の曲線へ移ります。最後に手前の顔へ戻ると、人物だけを見ていたときより、周囲から圧迫される感じが強くなります。
顔だけを切り取れば、分かりやすい恐怖の表情です。画面全体では、安定した橋、離れていく友人、うねる自然がその表情を作っています。不安を一人の内面に閉じなかったところに、この絵のしつこい強さがあります。
同じ主題と、不安を風景にした作品を比べる
《叫び》の線と色がどこまで独特なのか、象徴主義とゴッホの作品を並べて確かめます。
よくある質問
- ムンク《叫び》は何を描いた絵ですか?
- 二人の友人と歩く途中、赤く変わった空を見て、自然を貫く叫びを感じたというムンクの文章が起点です。耳をふさぐ人物に加え、橋、空、フィヨルド全体が不安を作っています。
- 《叫び》の人物は本当に叫んでいるのですか?
- 断定はできません。口は開いていますが、両手は耳をふさいでいるようにも見えます。ムンクの文章では、叫びは自然を貫くものとして記されており、人物はそれを聞いているとも読めます。
- 《叫び》の赤い空にはどんな意味がありますか?
- ムンクは空が血のように赤くなったと記しています。絵では赤い曲線が水面や人物の輪郭と呼応し、見えない叫びを形にしています。実際の空が赤くなった原因は、作品だけからは断定できません。
- 《叫び》は何枚ありますか?
- 彩色作は四点で、テンペラ画二点と素描二点です。別に1895年のリトグラフがあり、現存する刷りは約30点とされています。MUNCHは所蔵する八点を保存のため交替で展示しています。
- 《叫び》はどこで見られますか?
- 1893年の最初の彩色版はオスロのノルウェー国立美術館にあります。MUNCHも絵画、素描、リトグラフを所蔵し、少なくとも一点が見られるよう交替で展示しています。展示中の版は公式サイトで確認できます。
- 《叫び》の何がすごいのですか?
- 顔、空、水面、橋、人との距離をまとめて使い、不安を組み立てた点です。人物から年齢や性別を示す特徴を減らしたため、見る人が自分の感覚を重ねやすい像になりました。









