《叫び》は、二つのグループより先に描かれた

オスロ国立美術館が所蔵する《叫び》は1893年の作品です。舞台は、オスロ・フィヨルドを望むエーケベルグの道。前年に描かれた《夕暮れの憂鬱・絶望》では横向きだった人物が、こちらでは正面を向き、顔と身体が単純な形へ変わっています。

ムンクはブリュッケや青騎士のメンバーではありません。後の画家たちより早く、感情に合わせて見た景色の線と色を変えました。後続する表現主義の先行例にあたります。

ブリュッケは、建築学生四人で始まった

ブリュッケは1905年6月7日、ドレスデンで結成されました。創設者は、建築を学んでいたエルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー、フリッツ・ブライル、エーリヒ・ヘッケル、カール・シュミット=ロットルフの四人。最初の制作場所は、ヘッケルとシュミット=ロットルフが借りた空き店舗でした。

1906年には、キルヒナーがグループの綱領を木版で刷っています。角張った線や平たい色面は、整ったアカデミー絵画から離れたいという態度と結びついていました。名称を共有する以上に、制作場所と印刷物を持つ具体的な集団だったのです。

「原始的」という古い説明で済ませない

ブリュッケの解説では、長く「原始芸術から影響を受けた」という言い方が使われてきました。しかし彼らが見たのは、当時の民族学博物館に収蔵された非ヨーロッパ地域の作品です。ブリュッケ美術館も現在は、その発想を彫刻や家具へ取り入れた行為を「appropriation(流用・文化の取り込み)」と記しています。

荒い線を自由の印として見るだけでは、植民地主義のもとで作品が集められた経緯を落としてしまいます。作品の勢いと、参照元を対等に扱わなかった歴史は、切り離さずに見た方がよいでしょう。

青騎士は、作品の落選から展覧会を立ち上げた

青騎士の前史は1908年のムルナウにあります。カンディンスキー、ガブリエレ・ミュンター、アレクセイ・ヤウレンスキー、マリアンネ・フォン・ヴェレフキンが共に制作し、強い色と単純な形はしだいに再現から離れていきました。

1911年12月2日、カンディンスキーのほぼ抽象的な作品が新芸術家協会ミュンヘンの審査で退けられます。カンディンスキー、フランツ・マルク、ミュンターは協会を離れ、約二週間後に対抗展を開きました。今日では、女性を含む国際的な作家のネットワークとして捉え直されています。

「表現主義」でまとめる前に、作者と年を見る

作品名の脇にある作者名と制作年を先に見ます。ムンクの1893年なのか、ブリュッケ結成後なのか、青騎士の展覧会以後なのか。それだけで、同じ強い色でも置かれた状況が変わります。

画面では、まっすぐな線とうねる線、現実に近い色と大きく変えられた色を一組ずつ探します。《叫び》なら、橋の欄干と空の曲線を比べるのが近道です。その観察をした後で、様式名を確かめます。

作品で見る

エドヴァルド・ムンク《叫び》
叫び / エドヴァルド・ムンク(1893年)
正面を向く人物と空は曲線、橋と二人の人影は直線で組まれている
この作品の解説画像を拡大画像出典
ワシリー・カンディンスキー《コンポジション8》
コンポジション8 / ワシリー・カンディンスキー(1923年)
円、直線、三角形の距離と重なりだけで画面を組み立てる
画像を拡大画像出典

よくある質問

表現主義はドイツだけの運動ですか?
中心はドイツ語圏ですが、北欧のムンクや周辺地域の前衛実践とも強く接続しています。地域横断で捉える方が実態に近いです。
Die BrückeとDer Blaue Reiterの違いは?
ブリュッケは1905年にドレスデンの建築学生四人が結成し、青騎士の最初の展覧会は1911年にミュンヘンで開かれました。前者では角張った線や版画、後者では強い色から抽象へ向かう試みが見やすいですが、各作家を同じ作風にまとめないことも大切です。
ムンクは表現主義の画家ですか?
《叫び》は1893年で、ブリュッケ結成より12年早い作品です。ムンクは二つのドイツ語圏グループに参加していません。感情に合わせて線と色を変えた先行世代として位置づけられます。

作家・時代・見方を選ぶ

この作家の作品エドヴァルド・ムンク

代表作や同時代の作品を、作家ごとにまとめています。

この順番で読む《叫び》からムンクと表現主義に入る

《叫び》が何を描いているのか、怖い顔だけで終わらせたくないときに。

同じテーマ表現主義

同じテーマの記事をまとめています。

ほかの記事を探す

作品・作家

近い作品・作家の記事

同じ作家や時代を扱う記事です。

エドゥアール・マネ《オランピア》

19世紀後半 / フランス

1863年、落選作にも観客が集まった

1863年、パリ・サロンの落選作を見せる別会場が開かれました。そこに掛かったマネ《草上の昼食》には、観客の笑いも批判も集まります。作品を選ぶ審査員の外側に、観客が自分で判断できる場所ができた。

記事を読む
クロード・モネ《睡蓮》

19世紀後半 / フランス中心

白い服に青が入る。モネは光をどう色にしたか

何がすごい?
光と時間で変わる色を、絵の主題にした
色使い
影や白い服も一色で固定せず、周囲の光の色を置く

《日傘の女性》の白い服には、空の青、草の緑、日の光の黄が細かな筆触で入り込んでいます。モネにとって色は、時刻や天気とともに変わるもので、物に貼られた名前だけでは足りません。

記事を読む
ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山》

19世紀末 / ヨーロッパ

同じ印象派から、三人は別の方向へ進んだ

ゴッホは病室の窓から見た景色をそのまま写さず、夜空と村を組み替えました。スーラは細かな色点に加え、動かない人物の並びまで計画しました。セザンヌは山と空の境を閉じず、白い下地も残しています。

記事を読む

よく探されるテーマ

気になる言葉から読む

作品名、作家名、展覧会名で調べはじめた人に向けて、入口になりやすい記事を集めました。名前だけ知っている状態でも読めます。

特集の記事をすべて見る
源氏物語絵巻の東屋の場面

開催中

2026年 / 日本の展覧会

特別展「源氏物語 王朝のかがやき」|チケット・展示替え

会場
京都国立博物館 平成知新館
会期
2026年10月6日〜2026年11月29日

京都国立博物館の特別展「源氏物語 王朝のかがやき」は、2026年10月6日から11月29日まで開催中です。一般の当日券は2,200円。前売券とペア前売券は販売を終えました。

記事を読む
エリザベート・ヴィジェ=ルブラン《バラを持つマリー・アントワネット》

開催中

2026年 / 日本の展覧会

ドレスから映画衣装まで。マリー・アントワネット像を追う

会場
横浜美術館
会期
2026年8月1日〜2026年11月23日

横浜美術館の『マリー・アントワネット・スタイル』は、2026年11月23日まで開催中です。ドレス、宝飾、家具、映画衣装まで約200点。王妃が身につけたものと、後の時代に作られた『マリー・アントワネット像』が同じ会場に並びます。

記事を読む
ヨハネス・フェルメール《真珠の耳飾りの少女》

作品ガイド

美しいのに、なぜか怖い。5つの名画を見比べる

始まり
怖い、不思議、落ち着かないという第一印象
見る順番
視線、暗さ、空間、象徴の順に追う

《真珠の耳飾りの少女》が怖く感じるのは、暗闇から顔だけが浮かび、こちらを見返すように見えるからです。名前も場所も分からないため、視線の行き先も決まりません。少し怖い、なんとなく不思議、目が合うと落ち着かない。

記事を読む

テーマを広げる

関連するテーマ

同じタグや視点を持つ記事をまとめました。

ワシリー・カンディンスキー《黄-赤-青》

1919-1933年 / ドイツ

バウハウス入門:学校がデザインを変えた14年

白い建築や幾何学模様を見ると、『バウハウス風』と言いたくなります。けれどバウハウスは、見た目を統一するブランドとして始まったのではありません。木材、金属、布、色を実際に触り、芸術と工芸を同じ場所で学ぶ学校でした。

記事を読む
フアン・グリス《ピカソの肖像》

1910年代 / パリ

ばらばらの面から、座るピカソが見えてくる

鼻はどれ、手はどれ、と探し始めると《ピカソの肖像》は急に難しくなります。いったん人の名前を忘れ、黒に近い面を上から三つ拾ってみてください。顔、上着、組んだ手が縦につながり、椅子に腰かけた人物の重さが戻ってきます。

記事を読む
エドヴァルド・ムンク《叫び》

19世紀末〜20世紀初頭 / ノルウェー

橋はまっすぐ、空だけがうねっている

口を開けた人物より先に、橋の欄干を見てください。二本の直線が画面奥へ突き刺さり、その横で空と水辺は波打っています。まっすぐな場所には遠ざかる二人、うねる側には耳をふさぐ一人。

記事を読む

参照した資料