美術のことば / 見え方と構造

抽象

抽象か具象かは、きっぱり二つに分かれるとは限りません。山を描いた絵にも、輪郭、色面、明暗の配置という抽象的な組み立てがあります。その関係だけを主役に近づけるほど、外の世界との似かたは薄くなります。

ひとことで言うと

抽象の意味

抽象は、目に見える対象との似かたを弱め、線、形、明暗、色の関係を前へ出すことです。対象が少し残る絵から、まったく描かない非具象まで幅があります。

抽象の図解

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黒の正方形

1915年12月、ペトログラードの展覧会「0.10」で発表されたシュプレマティスムの出発点

  • 何が描かれているかより先に、色数と形の種類を数える
  • 具象的な名残がどこまで残っているか確かめる
  • 同じ形の反復と、重心の偏りを見る
カジミール・マレーヴィチ《黒の正方形》
黒の正方形 / カジミール・マレーヴィチ1915年

抽象は、「何も描かない」と同義ではない

ロンドンのナショナル・ギャラリーは、外の現実との似かたから独立した線、形、明暗、色の関係を「抽象的な性質」と説明しています。風景や人物が残る絵でも、その関係は見つけられます。

対象を変形した絵も抽象ですし、対象をまったく示さない非具象も抽象です。「何の絵か分からない」という感想だけで、ひとまとめにしないほうが作品の違いを拾えます。

最初に、色と形を三つずつ数える

題名を読む前に、使われている色と形を三つずつ挙げます。丸が多いのか、直線が多いのか。強い色が中央にあるのか、端へ寄っているのか。これで画面の材料が見えます。

次は同じ要素の繰り返しです。等間隔なら落ち着き、間隔が崩れれば動きが出ます。意味を当てるより、実際に見える反復とずれを言葉にするほうが、作品ごとの差を説明できます。

《黒の正方形》は、1915年の「0.10」で現れた

マレーヴィチは1915年12月、ペトログラードの展覧会「0.10」で《黒の正方形》を発表しました。外の世界を写す代わりに、白地と黒い四角の関係を絵の中心へ置いた作品です。

モンドリアン《コンポジションII》も、赤、青、黄、白と黒い線だけで作られています。ただし左右の区画は同じ大きさではありません。少ない材料だからこそ、線一本の位置と色面の比率が目立ちます。

この言葉が見える作品

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カジミール・マレーヴィチ《黒の正方形》
黒の正方形 / カジミール・マレーヴィチ1915年
白い地と黒い四角だけを前へ出し、外の世界を写す役割から絵画を切り離した
画像を拡大画像出典
ピート・モンドリアン《コンポジションII(赤・青・黄)》
コンポジションII(赤・青・黄) / ピート・モンドリアン1930年
赤、青、黄、白と黒い線。区画の大きさをそろえず、画面の釣り合いを作る
画像を拡大画像出典

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この言葉がよく出てくる記事

用語が実際の記事でどう使われているかを確かめられます。

ワシリー・カンディンスキー《コンポジション8》

1910年代-1930年代 / 欧州

形を描かなくても、色と線で画面は動く

カンディンスキーの色は音のように響き、マレーヴィチの黒い正方形は白い地に浮かびます。モンドリアンは垂直と水平、赤・黄・青だけで画面を組み立てました。何の絵かを当てるより、線、色、面がどこで釣り合い、ぶつかるかを見ると抽象芸術へ入れます。

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ワシリー・カンディンスキー《コンポジション8》

20世紀前半 / ドイツ・フランス

カンディンスキー入門:絵を“音楽のように”読む方法

《コンポジション8》の前では、円や三角形の名前を当てても画面に置いていかれます。大きな円から斜線へ視線が跳び、細かな点のそばで一度止まる。その動きを音楽のように聴くと、抽象画が急に動き始めます。

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ワシリー・カンディンスキー《Several Circles》

実践ガイド

抽象画の前で、意味より先に見るもの

『何の絵だろう』と考え続けると、抽象画の前で目が止まります。そんなときは、いちばん強い色を一つ選び、そこから伸びる線を追ってみてください。画面は左右どちらへ重いでしょうか。

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作品ガイド

感情が線と記号になる3本

顔つき、鳥の形、抽象の構成。感情が線や記号へ変わる過程を3本の記事で読みます。

エドヴァルド・ムンク《叫び》

作品ガイド

人物は叫んでいるのか、耳をふさいでいるのか

作者
エドヴァルド・ムンク
最初の彩色版
1893年

手前の人物は口を開き、両手を耳に当てています。奥の二人は振り返りません。ムンクが残した文章で、叫び声は赤く染まった空を含む自然から響きます。人物の声とは限りません。

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「抽象」を別の角度から見る

作品例を見る作品別ガイド

実際の作品で、この言葉が指す部分を確認します。

見方を試す見る練習

線や光、構図へ目を移しながら、自分で見分けてみます。

時代を調べる美術史の流れ

いつ使われ始め、前後の表現がどう変わったかを年表で見ます。

出典