最初に『何が描いてあるか』を探してしまうのは普通です

絵画を見るとき、私たちは普段、人物、風景、物語といった対象から入ります。だから抽象画の前で立ち止まるのは当然です。そこに明確な対象が見えないと、見るための足場が一気になくなったように感じるからです。

でも抽象画では、対象の代わりに、色、線、形、面積、重心、反復といった要素が前に出ています。入口をそこへずらすと、急に『見ていい場所』が増えてきます。

まずは『好きか嫌いか』より、『どこが一番強いか』を見る

抽象画を前にした最初の一歩として有効なのは、画面のどこが一番強く感じるかを見つけることです。色が強いのか、線が速いのか、広い余白が効いているのか。

ここで大切なのは、正解を当てることではありません。自分の視線がどこに引かれて、どこで止まり、どこで散るのかを確かめることです。その動きが、作品の設計に触れている部分です。

カンディンスキー、マレーヴィチ、モンドリアンは、入口がそれぞれ違う

カンディンスキーなら、まずリズムです。線や円、斜めの動きが、音楽のように画面の中で流れます。マレーヴィチなら、極端に減らされた形がどれくらい強い存在感を持つかが入口になります。モンドリアンなら、均衡です。どの面積が張っていて、どこで安定しているかを見ると入りやすくなります。

同じ抽象でも、見るポイントはかなり違います。だから『抽象画はこう見ればいい』と一つに決めるより、どのタイプの抽象かを感じる方が自然です。

抽象画では、『何がないか』ではなく『何が残されているか』を数える

対象がなくなった、と考えると、抽象画は不足して見えやすくなります。でも見方を変えると、むしろ何が強く残されているかが重要です。色数は少ないのか多いのか。線は直線中心か曲線中心か。余白は広いか狭いか。

抽象画は、削った結果として何を残したかに作家の考えが出やすい分野です。足りないのではなく、選び抜かれている。その感覚がつかめると、見え方はかなり変わります。

入口では、『わかる』より『追える』を目標にする

抽象画を前にしたとき、全部を理解しようとすると苦しくなります。最初は、色の関係を追えた、視線の流れを追えた、重心の偏りを感じ取れた、くらいで十分です。

抽象画は、見るたびに少しずつ読み筋が増えるジャンルです。最初の鑑賞で必要なのは、大きな解釈より、再現できる観察の型です。それがあると、二枚目、三枚目で急に面白くなります。

作品で見る

カジミール・マレーヴィチ《Black Square》
Black Square / カジミール・マレーヴィチ1915年
減らされた形の強さそのものを感じる入口として見やすい作品
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ワシリー・カンディンスキー《Composition VIII》
Composition VIII / ワシリー・カンディンスキー1923年
色と線のリズムを追うことで、一気に見やすくなる抽象画
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ピート・モンドリアン《Composition II in Red, Blue, and Yellow》
Composition II in Red, Blue, and Yellow / ピート・モンドリアン1930年
均衡や比率の見方がわかると、抽象画の面白さがはっきりする作品
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よくある質問

抽象画は自由に感じればいいだけですか?
感じ方は大切ですが、色、線、重心、反復といった観察の軸を持つと、感想がぐっと言葉にしやすくなります。
何が描いてあるかわからないと楽しめませんか?
楽しめます。抽象画では、対象よりも画面の成り立ち自体が主題になっていることが多いので、まずは構成を追う方が入りやすいです。
最初の1枚として見やすい作品はありますか?
マレーヴィチの《Black Square》、カンディンスキーの《Composition VIII》、モンドリアンの作品は、それぞれ違う入口がはっきりしていて見やすいです。

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