作品を1分だけ見る

解説を読む前に、次の3か所だけ見てみてください。答えを出す必要はありません。

  1. 1
    まず『普通の物』として見る

    作品名を忘れて、いったん日用品として見てみます。

  2. 2
    タイトルと署名を読む

    《Fountain》という題名と、署名の存在に目を向けます。

  3. 3
    『どこに出されたか』を想像する

    これが展示に提出された場面を想像してみます。

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便器を置くより、作品として提出する

見た目は、市販の便器を横倒しにしたものです。デュシャンは新しい形を作る代わりに、日用品を「R. Mutt」という名で展覧会へ提出しました。

誰が選び、どこに置き、どんな名前を与えたのか。便器だけを眺めても答えは出ません。作品を見る範囲を、物の形から展覧会の受付で起きた出来事まで広げる必要があります。

レディメイドが、制作から選択へ焦点を移す

《Fountain》を前にすると、「自分で作っていない」という疑問がまず浮かびます。便器の形はほぼ変えず、選び方、向き、置き場所、作者名を変えました。

手を動かした量だけで作品を決めるなら、これは作品ではない。その基準で十分なのかと、店の商品を展覧会へ移す行為が見る側へ問い返します。

拒否された出来事も、作品の歴史に入る

1917年、作品は独立芸術家協会展へ提出されましたが、展示されませんでした。出品料を払えば作品を受け入れるはずの無審査展にも、「これは作品ではない」という境界が残っていたのです。

現物は失われましたが、拒否をめぐる議論とアルフレッド・スティーグリッツの写真が残り、後年には複製も作られました。いま目にする《Fountain》の多くが複製であることも、この作品では見過ごせない点です。

《自転車の車輪》と比べ、選び方の違いを見る

《自転車の車輪》では、用途を失った日用品の組み合わせが、妙に見つめたくなる物へ変わります。そこではまだ、物そのものの不思議さが強く残っています。

《Fountain》では、物の組み合わせより提出という行為が目立ちます。《自転車の車輪》の奇妙な姿と比べると、デュシャンの関心が物の見え方から展示を受け入れる側へ広がったことが分かります。

物、場所、作者名の移し替えを追う

店では衛生陶器だった物が、横向きに置かれ、署名と題名を得て、展覧会へ運ばれます。物自体はほぼ同じなのに、商品、応募作、拒否された物、名作と呼び名が変わりました。

名作だと無理に納得する必要はありません。出品規則、署名、置き方、拒否のうち、気になる一つについて「誰が決めたのか」をたどる。それが、この便器から始められる具体的な見方です。

作品で見る

マルセル・デュシャン《Fountain》
Fountain / マルセル・デュシャン1917年(写真は後年の複製)
後年に作られた複製からも、横倒しの向きと「R. Mutt 1917」の署名を確かめられます。写真:David Shankbone。
画像を拡大画像出典
マルセル・デュシャン《Bicycle Wheel》
Bicycle Wheel / マルセル・デュシャン1913年(1951年版)
丸椅子に自転車の車輪を取り付けた初期のレディメイド。物そのものの奇妙な動きが目を引きます。
画像を拡大画像出典
ジョセフ・コスース《One and Three Chairs》
One and Three Chairs / ジョセフ・コスース1965年
一脚の椅子、その写真、辞書の定義を並べ、「椅子」とはどれなのかを問いかけます。
この作品の解説画像を拡大画像出典

よくある質問

《Fountain》は、ただ便器を置いただけの作品ですか?
物だけを見れば、横向きの便器です。ただし作品の歴史には、署名して無審査展へ提出し、それでも展示を拒まれた一件まで含まれます。
どうしてここまで有名になったのですか?
便器そのものより、『誰が作品と決めるのか』という問題を残したからです。作者、展覧会、批評、写真のどれが作品を支えるのかという問いは、その後の現代美術にも引き継がれました。
最初はどこから見始めると追いやすいですか?
店で売られた衛生陶器が、展覧会へ運ばれたところから始めます。横向きの置き方、署名、展示拒否まで追うと、物はほぼ変わらないまま周囲の判断だけが動いたことが分かります。

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この作家の作品マルセル・デュシャン

代表作や同時代の作品を、作家ごとにまとめています。

解説なしで見る《Fountain》で『作品になる瞬間』を見る

この便器は、どの瞬間から『見る対象』に変わったのでしょうか。

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