石や鉄を、別の何かに見立てず置く

もの派は1960年代末の日本で現れた美術の動きです。石、鉄板、木、紙、ガラスなどを大きく加工せず、素材の性質が残る形で空間へ置く作品が作られました。

石を人間の象徴として読む前に、ごつごつした表面と重さを想像します。次に、鉄やガラスがその重みをどう受けているかを見る。作家の手技が目立たないぶん、支え方や接点が強く見えるようになります。

接しているか、少し離れているかを見る

まず物同士が触れている場所を探します。石が鉄板へ直接載るのか、わずかに離れて向き合うのか。触れていれば重さや圧力を想像し、離れていればその空白へ目が向きます。

次に床と壁を見ます。床へ置く、壁へ立てかける、空中で支えるといった違いで、同じ材料も安定して見えたり危うく見えたりします。配置のわずかな差が、部屋全体の緊張を変えます。

李禹煥《Relatum》では、間も見える部分になる

李禹煥の《Relatum》系列では、自然石と工業製品の鉄板など、性質の違う物が少数だけ置かれます。物を交互に見ていると、その間の空白にも幅や方向があることに気づきます。

見た目が簡潔でも、目的は単に形を減らすことではありません。物、場所、見る人の位置を同時に意識させる。どこへ立つかで関係が変わるところに、もの派を見る面白さがあります。

近づきにくい場所があれば、理由を探す

作品の前で足が止まったら、その場所を覚えておきます。石が転がりそう、ガラスが割れそう、物の間へ入りにくい。身体が感じた危うさには、重さや距離の具体的な理由があります。

一歩横へ動き、物の重なり方が変わるかを見ます。解説の思想用語を先に理解しなくても、配置によって自分の動きが変えられたことは確かめられます。

最後に、一つだけ位置を変えた場面を想像する

石を少し右へ動かしたら、鉄板との関係はどう変わるか。ガラスを外したら、危うさは残るか。実際には触れず、頭の中で一つだけ位置を変えてみます。

印象が大きく変わるなら、元の配置が偶然に見えても距離はよく選ばれています。少ない物の中で何が働いていたかを、自分の想像で確かめられます。

作品で見る

李禹煥《Relatum with four stones and four irons》
Relatum with four stones and four irons / 李禹煥1978年
自然物と工業素材をほとんど加工せずに向き合わせ、物と関係の両方を前景化した作品
画像を拡大画像出典
李禹煥《Relatum - The skyroad》
Relatum - The skyroad / 李禹煥2019年
屋外空間の広がりまで取り込みながら、最小限の配置で強い場をつくる作品
画像を拡大画像出典
李禹煥《Relatum - She and He》
Relatum - She and He / 李禹煥2005年
少数の要素の置き方だけで、関係の緊張をはっきりと体感させる作品
画像を拡大画像出典

よくある質問

もの派とミニマリズムは同じですか?
似て見える部分はありますが、同じではありません。ミニマリズムが工業的な反復や客観性を強く打ち出すのに対し、もの派は自然物と人工物の関係や、空間の張りをより重視します。
何を意味しているのかわからないと楽しめませんか?
楽しめます。意味を探す前に、重さ、距離、支え方、空間の緊張を観察してみてください。もの派では、その身体的な感覚が大事です。
日本の現代美術の入口として見やすいですか?
見やすいです。ただし、物語を読むというより、物と空間の関係を感じる見方に少し切り替える必要があります。その切り替えができると、面白くなります。

作家・時代・見方を選ぶ

美術史の順番日本からアートに入ってみる

西洋美術の年表より、日本の作品から始めたいときに。

同じテーマもの派

同じテーマの記事をまとめています。

ほかの記事を探す

作品・作家

近い作品・作家の記事

同じ作家や時代を扱う記事です。

ドナルド・ジャッドのコンクリート作品

1960年代以後 / アメリカ中心

ミニマリズム入門:少ない要素なのに、なぜこんなに強いのか

同じ大きさの箱が並び、蛍光灯が壁を照らす。写真だけなら「これだけ?」と思うかもしれません。ところが実物の前を歩くと、間隔や光が身体の感じ方を変えます。ミニマリズムは、形の少なさより空間の使い方から見ると入りやすい美術です。

記事を読む
オーギュスト・ロダン《The Thinker》

実践ガイド

彫刻は、正面だけでは半分しか見えない

絵の前では立ち位置を決めやすいのに、彫刻の前ではどこが正面なのか迷います。その迷いは消さなくて大丈夫です。少し離れて輪郭を見て、横へ動き、後ろへ回る。表面へ近づいたら、今度は素材と光を見る。

記事を読む

読む順番

流れでつかむ

一枚ずつより先に全体の流れを置きたいときのために、時代の大きなうねりをつかむ記事をまとめています。

特集の記事をすべて見る
クロード・モネ《印象、日の出》

19世紀後半 / フランス

一瞬の光と日常を、絵の主役にした印象派

時代
19世紀後半のフランスを中心に広がった美術運動
起点
1874年、パリで開かれた第1回印象派展

港の霧に太陽が浮かび、木漏れ日が人々の服に落ち、踊り子は舞台裏で身体を休めます。印象派は神話や歴史の大事件に加え、移ろう光と同時代の日常を絵の中心へ置きました。モネ、ルノワール、ドガでは、同じ運動の中でも見る場所が違います。

記事を読む

テーマを広げる

関連するテーマ

同じタグや視点を持つ記事をまとめました。

李禹煥《Relatum with four stones and four irons》

1970年代以後 / 日本・韓国・国際

李禹煥とは? 石・鉄・余白から《Relatum》を見る

床に石と鉄板が置かれています。数歩近づくと、鉄板が石を受け止めているようにも、互いに押し合っているようにも見える。李禹煥の《Relatum》では、物の間の空白にも緊張があります。

記事を読む
ロイ・リキテンスタイン《Whaam!》

1950年代半ば〜1960年代 / イギリス、アメリカ

スープ缶と漫画は、美術館でどう見える?

題材
商品、広告、コミック、映画スターなど、広く流通するイメージ
よく使う方法
反復、拡大、切り抜き、印刷表現のまね

スーパーなら数秒で通り過ぎる赤白の缶が、美術館では32枚続きます。漫画なら一瞬で読む爆発が、《Whaam!》では横幅4メートルを超えます。題材はよく知っているのに、見慣れた大きさと速度では見られません。

記事を読む

参照した資料