ジョーン・ジョナスが変えたのは、『作品の形』より『見る側の足場』です
ジョーン・ジョナスは、パフォーマンス、ビデオ、ドローイング、インスタレーションを横断してきた作家です。そのため、作品をひとつのジャンルにきれいに収めるのが少し難しいです。
でも手がかりはあります。彼女の作品では、身体も映像も鏡も、安定したものとしては出てきません。目の前にあるはずの像がずれたり、反復したり、途切れたりすることで、『見えているつもり』が崩れます。そこがまず面白いところです。
初期パフォーマンスでは、身体は『表現する主体』より『揺れる像』として扱われます
1960年代末から1970年代初頭にかけて、ジョナスは鏡や仮面、反復的な動作を使いながら、身体を一枚岩の自己表現として見せませんでした。身体は何かを語る主人公というより、見る位置によって変わってしまう像として扱われます。
ここが近づきやすい点でもあります。感情移入しろ、と迫られる作品ではないからです。むしろ『なぜこんなに落ち着かないのだろう』と感じるところから入ると、彼女が見ていることの条件そのものを作品化しているとわかってきます。
《Vertical Roll》では、映像の不具合がそのまま作品の骨格になります
《Vertical Roll》で印象的なのは、モニターの垂直ロールというテレビ特有のずれが、ただの故障では終わっていないことです。画面が跳ねるたびに、身体の動きも断続的に見え、見る側は安定した全身像を受け取れなくなります。
つまりここでは、映像は情報をきれいに届ける道具ではありません。むしろノイズを含んだ媒体で、その不安定さが身体のイメージと結びついています。ビデオアートが『映像を使った絵』ではなく、メディアの癖ごと作品にするものだと実感しやすい一作です。
ジョナスは、ビデオとパフォーマンスをきっちり分けません
ジョーン・ジョナスの仕事を見ていると、パフォーマンスかビデオか、という分類がだんだん重要でなくなってきます。身体の動き、モニターの像、空間の配置、観客の距離が一体で働くからです。
そこが、ナムジュン・パイクの装置的な映像実験や、オノ・ヨーコの参加型パフォーマンスと並べたときにも面白いところです。ジョナスは、装置だけにも身体だけにも寄りかからず、その間の不安定な地帯をずっと掘っています。
見るときは、『意味』を急がず、反復とずれを先に拾う
ジョーン・ジョナスの作品に出会うと、『これは何を象徴しているのだろう』と意味を急ぎたくなります。でも最初は、同じ動きが繰り返される場所、画面がずれる瞬間、身体が切れて見えるタイミングを拾う方が近づきやすいです。
その観察を続けるうちに、作品が語っているのは完成したメッセージではなく、『見ることはこんなに不安定だ』という体験そのものだとわかってきます。ジョナスは難しい理論を押しつける作家というより、見ているこちらの足元を少しだけずらす作家だと考えると近づきやすくなります。
作品で見る
Vertical Roll / ジョーン・ジョナス(1972年)
映像の垂直ロールを作品の形式へ取り込み、身体の像を安定させないまま見せる重要作
画像を拡大画像出典TV Buddha / ナムジュン・パイク(1974年)
映像装置そのものを循環の場に変える作品と比べると、ジョナスが身体像の不安定さへどれほど踏み込んだかを追いやすい
画像を拡大画像出典Cut Piece / オノ・ヨーコ(1964年)
観客と身体の距離を作品化する別方向の代表例。ジョナスの仕事と並べると、身体の扱い方の差がはっきりする
画像を拡大画像出典 よくある質問
- ジョーン・ジョナスはパフォーマンス作家ですか、ビデオ作家ですか?
- どちらか一方にきれいに分けるより、その両方をまたいだ作家として見る方が実態に近いです。身体、映像、空間が一体で働くところが重要です。
- 《Vertical Roll》は故障した映像を見せているだけですか?
- いいえ。そのずれを隠さず、身体像の見え方そのものを不安定にする形式として使っています。だから不具合ではなく、作品の骨格です。
- 最初は何に注目すると追いやすいですか?
- 意味を一気に解こうとせず、反復、途切れ、ずれを見てみてください。そこから入ると、ジョナスの作品が『見る条件』を扱っていることを追いやすくなります。
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