大地を削ってできた空間を見る

石や金属で形を立ち上げる彫刻とは反対に、《Double Negative》は大地を削ってつくられました。二つの溝には何も置かれず、取り去られた空間が形になります。

作品を物として展示室へ運ぶことはできません。ネバダの地形、二つの切れ込み、その間にある自然の峡谷がそろって初めて成立します。場所そのものが作品を構成しています。

溝の大きさを、歩く身体で測る

鮮やかな色や複雑な形はありません。それでも溝の縁に立ち、長さや深さを歩いて測ると、人の身体と地形の大きさがぶつかります。写真で見た形が、距離と足場を伴う空間へ変わります。

どこから全体を眺めるか、向こう側へどう渡るか、切断面へどこまで近づけるか。作品の見え方は、鑑賞者の位置と移動によって変わります。

二つの「Negative」が、峡谷を挟んで向き合う

題名の二つの「Negative」は、峡谷を挟んで向かい合う二つの切れ込みを指します。物を置かないことで、これまで意識しなかった地面と空間へ目が向きます。

削られた土は現地に残らず、その欠落だけが形を保ちます。巨大な造成の規模に驚いたあと、何もない部分の輪郭を目でつなぐと、題名の意味を身体で理解できます。

《Spiral Jetty》《Sun Tunnels》と比べる

ランドアートには、ロバート・スミッソン《Spiral Jetty》のように形そのものがよく見える作品があります。ナンシー・ホルト《Sun Tunnels》のように、光や天体との関係が前面に出る作品もあります。

《Double Negative》には、渦巻きや光を取り込む筒のような目印がありません。そのそっけなさによって、大地を削る行為がむき出しになります。三作を比べると、ランドアートが形、天体、欠落という別々の方法で場所を扱ったことが分かります。

工事の規模より、失われた土を想像する

最初は巨大な工事の痕跡に見えるかもしれません。そこで、作家がなぜ物を置かず、地面を消したのかと考えます。現地に残る土から、運び去られた土の量へ想像を広げてください。

次に二つの溝と中央の峡谷を、ひと続きの空間として眺めます。何が置かれたかを探す目から、何が失われ、どんな場所が現れたかを見る目へ切り替わります。

作品で見る

マイケル・ハイザー《Double Negative》
Double Negative / マイケル・ハイザー1969-70年
削り取られた空間そのものを作品として見るための、ランドアートの決定的な一作
画像を拡大画像出典
ロバート・スミッソン《Spiral Jetty》
Spiral Jetty / ロバート・スミッソン1970年
場所と時間の変化が追いやすいランドアートの代表作。ハイザーとの違いも比較しやすい
画像を拡大画像出典
ナンシー・ホルト《Sun Tunnels》
Sun Tunnels / ナンシー・ホルト1973-76年
空や光との関係を前景化する作品。ランドアートの別の読み方が見えてくる
この作品の解説画像を拡大画像出典

よくある質問

《Double Negative》は、現地に行かないとわかりませんか?
写真でも概要はつかめますが、身体と地形の大きさがぶつかる感覚は現地で強くなります。画像を見るときも、空間そのものが作品だと考えると、二つの溝の読み方が変わります。
なぜ『何もない』ような作品が重要なのですか?
物体を作ることだけが美術ではないと示したからです。不在や場所そのものを、作品として扱えることをはっきり見せました。
最初に見るランドアートとして難しくないですか?
見た目は地味ですが、考え方の骨格は明快です。何かを置く代わりに大地を削った、という一点から始められます。

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