古代神話の二人に、体重とぬくもりを与える
アントニオ・カノーヴァ(1757-1822)は、新古典主義を代表する彫刻家です。神話の人物、均衡の取れた姿勢、白い大理石。古代を思わせる要素がそろっていますが、古い像をそのまま写したわけではありません。
たとえば《プシュケを蘇らせるクピドの接吻》では、安定した立像より、支えられて起き上がる身体を選びました。古代神話の場面を借りながら、重さや肌の近さをこちらに想像させています。
唇が触れる直前で、動きが止まる
二人の顔は近いのに、まだ触れていません。プシュケの腕が丸い輪を作り、その中へクピドの顔が入る。翼と脚は外へ伸びています。動きの違う線が、二人の顔の周りでほどけずに重なります。
正面で腕の輪を見たら、横へ回って顔と顔の隙間をのぞきます。背後へ進むと、薄い翼や背中を抱く腕が現れます。一つの正面を探すより、歩くたびに変わる構図を楽しむ方がこの彫刻には合っています。
光が、肌・髪・羽を分ける
写真では白一色に見えますが、実物の表面には光の差があります。頬や肩の磨かれた面では光がなめらかに動き、髪や翼の細い溝には影が残ります。その差が、肌、髪、羽を触り分けるような感覚を生みます。
同時代のダヴィッドが輪郭と姿勢をくっきり見せたのに対し、カノーヴァは石の表面を通して感情へ近づきました。どちらも新古典主義ですが、絵の線と彫刻の肌では、こちらの身体を動かす方法が違います。
神話を知らなくても、支える腕は読める
プシュケとクピドの物語を知らなくても、倒れていた人が抱き起こされ、二人の顔が近づいている場面は読み取れます。手がどこへ触れ、体重を誰が支えているか。身体の動きが、言葉より先に二人の関係を伝えます。
物語を調べるのは、そのあとでも遅くありません。先に姿勢から感じたことと、あらすじを読んだあとの印象が違えば、その差も作品を見た記憶になります。
正面、横、背後。三つの場所で立ち止まる
二人の顔がよく見える位置では、腕が作る輪を見ます。横へ移ると、腕と胴体の間に空間が開く。背後には翼の付け根と、身体を支える脚があります。三か所に立つだけでも、輪郭は別の形へ変わります。
撮影できる場所でも、すぐに正面でシャッターを切らず、一度横へ回ってみます。作品集で見た正面より、翼の付け根が見える背後に長く立つかもしれません。自分の足で見つけた角度は、白い石の像を立体のまま記憶に残してくれます。
作品で見る
プシュケを蘇らせるクピドの接吻 / アントニオ・カノーヴァ(1787-1793年頃)
正面では腕の輪、横では顔の隙間、背後では翼の付け根が現れます。
画像を拡大画像出典ホラティウス兄弟の誓い / ジャック=ルイ・ダヴィッド(1784年)
三人の兄弟の腕と剣が中央へ集まり、直線の強さが場面を引き締めます。
画像を拡大画像出典グランド・オダリスク / ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル(1814年)
長く引き伸ばされた背中の輪郭は、大理石の丸みとは違う身体の理想化を見せます。
画像を拡大画像出典 よくある質問
- カノーヴァはロマン主義の彫刻家ですか?
- 基本的には新古典主義に分類されます。ただし感情表現の繊細さは、後のロマン主義的感性とも接続する部分があります。
- 彫刻は正面だけ見れば足りますか?
- 正面だけでも全体像は見えますが、横や背後へ回ると腕の重なりや翼の薄さが現れます。可能なら一周し、顔の距離が最も近く見える場所も探してみてください。
- 最初はどこを見ると形を追いやすい?
- 腕の交差、顔と顔の隙間、肩を滑る光の順に追ってみてください。抱き起こされた身体が口づけへ近づく、その途中の動きを目でたどれます。
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