ART WORD / 絵肌

筆致

絵を見るとき、つい『何が描いてあるか』を先に読みがちです。でも近づくと、絵は線や色だけでなく、手の動きの記録でもあります。

ひとことで言うと

筆致の意味

筆致は、絵の具がどんな速さ、向き、圧で置かれたかという、筆の痕跡そのものを指す言葉です。

筆致の図解

作品でつかむ

自画像

筆の向きと細かな刻みが、そのまま顔の緊張や空気まで運んでくる

  • 筆の向きがそろう場所と崩れる場所を見る
  • 細かいか大きいかだけでなく、速さの違いを見る
  • 筆致は感情の説明ではなく、画面の構造でもある
フィンセント・ファン・ゴッホ《自画像》
自画像 / フィンセント・ファン・ゴッホ1889年

ひとことで言うと

筆致は、筆や道具が画面に残した動きの跡です。きれいに塗りつぶされているように見える絵でも、近くで見ると、押す、払う、刻む、なぞるといった動きが残っています。

その痕跡を見ると、画家が何を描いたかだけでなく、どう画面を組み立てたかが見えてきます。筆致は感情の勢いだけでなく、構成の骨組みでもあります。

どこを見るとわかりやすい?

まず、同じ方向に流れる筆の帯を探します。空は横に流れ、草は縦に立ち、顔は輪郭に沿って回り込む、といった違いが見えると、筆致が形を支えていることがわかります。

次に、絵の具が薄く置かれている部分と、重く残っている部分を見比べます。筆致は一様ではなく、見る人に立ち止まってほしい場所ほど密度が上がることがあります。

作品で見るとこう見える

ゴッホの自画像では、顔のまわりを取り巻く短い筆致が、輪郭を固定するよりも、神経の細かな震えのようなものを残しています。似顔の情報だけでなく、画面の張りつめ方が筆でつくられています。

モネ《印象、日の出》では、港の輪郭はあえて曖昧にされ、その代わり色の小さな置き方で朝の湿った光が立ち上がります。筆致を見ると、絵は説明ではなく、見え方の再現装置なのだと実感しやすくなります。

この言葉が見える作品

用語一覧へ
クロード・モネ《印象、日の出》
印象、日の出 / クロード・モネ1872年
細かな筆の置き方が、輪郭より先に光と大気を伝えてくる
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ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山》
サント=ヴィクトワール山 / ポール・セザンヌ1902-1904年頃
短い筆の積み重ねが、風景を面として組み立てていく
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出典