輪郭より先に、重心が見つかる

顔や服はいくつもの面へ割れていますが、暗い形は中央から大きく外れません。目はそのまとまりを胴体として受け取り、見えない椅子や身体の重さまで補います。

ピカソやブラックのキュビスムで形を見失った経験があっても、グリスなら足場を作りやすいでしょう。物の輪郭を当てる前に、濃い面と薄い面がどこで釣り合うかを眺められるからです。

似顔絵なのに、正面だけを選ばない

1912年1月から2月に描かれた《ピカソの肖像》には、鼻らしい角、白い襟、組まれた指が残っています。ただし、どの断片も同じ方向から見た形にはそろいません。

写真のような似顔より、ピカソを画家としてどう組み立てるかが前に出ます。正面顔と横顔の気配を一枚へ押し込み、上着の量感は暗い色で支える。分解と再構成が同時に起きています。

暗い面と平らな色が、画面を組み立てる

ピカソやブラックが進めたキュビスムを、グリスは輪郭のはっきりした面と明暗のリズムで組み立て直しました。中央には暗い面が縦に並び、その周囲へ顔、襟、手の断片が収まります。

何が描かれているか分からなくなったら、物の名前を探すのをいったんやめ、濃い面と薄い面の配置だけを見ます。人物の重心が先に見え、そのあと鼻や指が見つかります。

暗い面を三つ結ぶと、人物の位置が見える

画面の中でいちばん暗い面を三つ拾い、その位置を目で結びます。周りの明るい面まで見ると、中央に人物の重心ができます。

次に、顔、襟、手らしい断片を拾います。形が分かれていても、どこに人物が座っているかは崩れていない。その仕組みを順番に確かめられます。

作品で見る

フアン・グリス《ピカソの肖像》
ピカソの肖像 / フアン・グリス1912年
暗い面が縦に集まり、その周囲へ顔、襟、指らしい断片が収まります。
画像を拡大画像出典
フェルナン・レジェ《都市》
都市 / フェルナン・レジェ1919年
標識、建物、機械のような形が、鮮やかな色面の中でぶつかります。
画像を拡大画像出典
ピート・モンドリアン《コンポジションII(赤・青・黄)》
コンポジションII(赤・青・黄) / ピート・モンドリアン1930年
黒い線で区切った白い面に、赤・青・黄だけを残した徹底した構成です。
画像を拡大画像出典

よくある質問

フアン・グリスはピカソより「穏やか」な作家ですか?
形の分解は大胆ですが、暗い面や色の重心が崩れにくい画家です。その整理された構成が、ピカソやブラックとは違う印象を作ります。
キュビスムは、ひとつの答えを当てる見方ですか?
ひとつの答えを当てるより、どの面が重心を作るかを観察してみてください。暗い面と明るい面の支え合いを追ううちに、ばらばらだった形が一つの肖像へまとまります。
最初に向き合う1枚として、この作品は難しくない?
鼻や目を探すと難しく感じます。先に中央の暗い形を縦に追い、白い襟と手をあとから加えてください。人物の重心が戻ってから細部を見る方が、画面の組み立てを追いやすくなります。

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