《The Flatiron》の中心は、建物そのものより『見え方』にある
フラットアイアン・ビルは当時から有名な建築でした。だからこの写真も、最初は建物の記録に見えます。でも少し見ていると、情報の中心は建物の説明ではないことに気づきます。
木の枝、霧の層、夕方の色味が強く前に出ていて、建物はその気分の中に浮かび上がっています。写っている対象は建築でも、作品として残るのは都市の空気です。
縁取りがやわらいでいるから、都市が硬く閉じない
この写真では、建物のエッジがかっちり切られず、全体が少し霞んでいます。そのため都市が断定的に見えず、どこか夢の手前のような状態になります。
ここが大事です。近代都市は普通、速度や硬さと結びつけて語られやすいですが、《The Flatiron》では逆にやわらかく見えます。都市の威圧感ではなく、都市が持つ詩的な面が前に出てきます。
木の枝が画面を横切ることで、建築写真ではなく『見る経験』に近くなる
枝が前景を横切っていることで、私たちはまるで通りの端からこの建物を眺めているように感じます。つまりこれは、正面からきれいに見せる建築写真ではありません。
誰かがたまたまそこで立ち止まり、夕方の街を見上げた感覚に近い。視点が身体に近いから、この作品は記録より経験として残りやすいのです。
色調の抑え方が、都市を『名所』から『気配』へ変えている
《The Flatiron》の色は派手ではありません。青みがかった薄暗さと、わずかな光のにじみだけで成立しています。その抑えた色調が、都市を観光的な名所から、気配の場へ変えています。
ここでは建物を知っている必要すらありません。どこの街かより、どういう時間帯のどういう気分かが先に伝わります。そこが、この写真が長く残る理由です。
見るときは、『建物』より『枝と霧』に先に目を置く
《The Flatiron》を見るときは、つい中央の建物を主役として見てしまいます。でもむしろ先に、枝のシルエットと霧の層を追う方が、この写真の呼吸を追いやすいです。
そこを拾えると、この写真は建物の肖像ではなく、都市が一瞬だけやわらかくなった場面だと浮かびます。建築の写真なのに、最終的には空気の写真として残る。そのズレが面白さです。
作品で見る
The Flatiron / エドワード・スタイケン(1904年)
都市の建物を写しながら、建築の説明より気分の方を前に出した作品
画像を拡大画像出典Winter, Fifth Avenue / アルフレッド・スティーグリッツ(1892-93年頃)
同じく都市を写しながら、雪の流れで街の感触を残す写真。比べると《The Flatiron》の静けさが追いやすい
画像を拡大画像出典The Pond—Moonlight / エドワード・スタイケン(1904年)
風景側の作品と並べると、スタイケンが一貫して『気分の像』を作っていたことがわかる
詳しく読む画像を拡大画像出典 よくある質問
- 《The Flatiron》は建築写真ですか?
- 建物を写してはいますが、建築を説明するための写真というより、都市の空気を作品にした写真として見る方が近いです。
- なぜこんなにぼんやりしているのですか?
- 鮮明さを削ることで、建物の情報より夕方の気配が前に出るようにしているからです。そこがこの作品の表現の中心です。
- 最初はどこから見始めると追いやすいですか?
- 中央の建物より先に、前景の枝と霧を追ってみてください。そこにこの写真の雰囲気の骨組みがあります。
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